身体を動かすエネルギーの正体
私たちが歩いたり、重いものを持ち上げたり、声を出したりできるのは、すべてATP(アデノシン三リン酸)という物質のおかげです。ATPは、身体を動かすためのエネルギー源として働いており、人間の活動のすべてを支えている“ガソリン”のような存在です。
細胞の中では、ATPが分解されることでエネルギーが放出され、それを使って筋肉を動かしたり、内臓を働かせたりしています。このATPなしに、私たちは一歩も動けません。
ATPは体内で作ってはすぐ使われる
「ATPがエネルギーなら体内にいっぱい貯めておけば安心じゃないの?」と思うかもしれません。
しかし、実際には体内にあるATPの90%は、なんと1分以内に使い切られてしまいます。
つまりATPは長時間貯めておけないのです。
だからこそ、私たちの体は常にATPを作り続けながら活動しています。
ATPを作る3つの材料とは?
ATPを作るために必要な材料に以下の3つです。
- クレアチンリン酸
- 糖質(グルコース)
- 脂質(体脂肪など)
この3つが私たちの体のエネルギー源になります。
炭水化物がATPの材料じゃないの?
なお、炭水化物からATPが作られると言われることもありますが、これはやや不正確です。
炭水化物は「糖質+食物繊維」の総称であり、食物繊維はATPの材料になりません。
なので、ATPの材料は糖質から作られると覚えておきましょう。
エネルギー供給の3つの仕組み
私たちの体は、状況に応じてATPの材料を使い分けています。
エネルギー供給の仕組みは以下の3つに分類されます。
- ホスファゲン機構
短時間・高強度の運動時に使われます。
ウエイトリフティングや100m走のような“瞬発力“が必要な時に活躍します。
ただし持続時間は8秒程度と短めです。
- 解糖系(糖質)
中強度の運動に対応します。
糖質を材料としてエネルギーを供給し、30〜60秒ほどの動作をカバーします。
たとえば、400m走やインターバルトレーニング、高強度の筋トレセット中など
- 酸化系(脂質)
安静時や長時間の運動で活躍するのが脂質です。
ジョギングやウォーキング、日常生活の動きの大半がこの酸化系でまかなわれています。
脂質は最も効率の良いエネルギー源
脂質は非常に“コスパ“の良いエネルギー源です。
糖質やクレアチンリン酸よりも、ATPの産生量が圧倒的に多く、1分子の脂質からおよそ129個のATPを作られると言われています。
ただ、脂質の分解に時間がかかるというデメリットがあります。
しかし持久的な活動では非常に効率的です。
つまり、私たちの体は“効率よく長く動く“ために、日常的には脂質をエネルギー源として多く利用しているのです。

【脂質=体脂肪じゃない】脂がないと身体は動かない
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電力供給との共通点
エネルギー供給の話は、発電の仕組みに例えると理解しやすくなります。
- ベースロード電源(常時稼働)=脂質エネルギー
- ミドル電源(負荷がやや上がった時に稼働)=糖質エネルギー
- ピーク電源(急激な需要に対応)=クレアチンリン酸
このように私たちの体も効率やスピードに応じてエネルギー源を使い分けているのです。
効率よく体を動かすために
ATPは私たちが生命を維持し、活動するために欠かせないエネルギー源です。
そのATPを作るには、「糖質・脂質・クレアチンリン酸」という3つの栄養素が必要であり、場面に応じて使い分けられています。
特に脂質は最も効率よくATPを生み出せる重要なエネルギー源です。無理な糖質制限や脂質制限をすると、エネルギー代謝が乱れて体調不良の原因にもなりかねません。
健康的に体を動かすためには、栄養のバランスのとれた食事が何より大切です。
トレーニング中の方も日常的にエネルギーをしっかり使いたい方もATPの仕組みを知ることで、より効率的な食事と運動ができるようになります。